川崎南税務署碑文

Web解説 川崎南税務署碑文 戦後の在日コリアンの生活苦

1 戦後の在日コリアンの労働と生活

『在日朝鮮人に関する総合調査研究』(朝鮮文化研究所1957年新紀元社刊)の著者、朴在一はその著書の中で戦後の在日朝鮮人の生活について以下のように述べている(P.64戦後の職業)。

「戦後になって朝鮮人の職業にまず起こった変化は戦時中に集中動員されていた産業労働部門からの追放である。戦後直ちに朝鮮人が従来の全産業部門から跡を絶つようになった理由としては、敗戦による軍需体系産業の崩壊または休止と、朝鮮の日本からの解放による朝鮮人の立場上の変化並びに朝鮮への引揚が考えられる。・・・戦後、軍人の復員と一般日本人の引揚げにより日本内の産業人口は急激に増大した。その結果として日本は戦災と敗戦で破壊麻痺された産業状態とあいまって未曾有の失業者を擁することになり、いかなる職業であれ日本人勤労者がこれに殺到した。したがって、この時期に純粋な筋肉労働のみの未熟練労働の持ち主である朝鮮人労働者が日本の産業にとって必要なはずがなく、またいかなる下層労働でもそこに割り込む余地などありえなかった。これが戦後になって朝鮮人が完全に日本の産業労働から締め出された基本原因である。・・・日本内の一切の職場から追放された在日朝鮮人は、自主的な小生産か小商売又は闇を営むか又はこの種の同胞経営に雇用されるかによって、その敗戦日本における新しい生活のスタートを切ったのである。」

 在日コリアンは生活の糧を失い、日雇い、小規模小売など不安定な収入のため、女性は家計の補助のためドブロクや焼酎の密造などを行なった。

2 ドブロクの密造、販売

 その多くが農村出身であった朝鮮人たちは、元来、それぞれの家庭で「マッコリ」を作り(「家醸酒」カヤンジュと呼ばれ、農作業の合間に飲まれていたことから「農酒」ノンジュとも呼ばれた)、水と米と麹さえあれば3~4日で醸造できる技術を持っていた。製造は認可されていないので酒税法違反となり、ドブロク密造摘発は、民族運動弾圧の口実にも使われた。

 川崎では1947年6月に集住地域に対する大掛かりな摘発事件が起きた。当時の神奈川新聞報道によれば、川崎南部の、桜本3丁目、入江崎、水江町などの朝鮮部落を「武装警官200人、出動税務官吏100名計300名が10数台のトラックに分乗、部落を包囲して交通を遮断」し、税務官吏100名が「片っぱしから家宅内の調査を始める」。同じ出来事について読売新聞が横浜米軍CID発表によって書いた記事によれば「横浜米軍C・I・D並びに米軍憲兵隊員及び警部補30名、巡査70名、横浜検察庁検事2名の協力」で「朝鮮人98名を検挙」とあり、占領軍との連携が密接に執られていたことがわかる。この摘発のあった夜、神奈川税務署間税課長が帰宅途中に駅前で報復攻撃を受け、翌日死亡する事件が起こった。8月7日には武装警官87名で池上新田中留耕地と桜本を包囲して検挙した。

 この事件は、政府内でも注目され、7月には閣議決定として、「集団部落が、酒の密造のみならず闇取引の巣窟となっており、法律に基づく犯罪の検挙に対して逆襲に出るなど、社会秩序を乱している」として、朝鮮人を治安取り締まりの対象として取り囲んでいく姿を見ることができる。

川崎南税務署 碑文 全文

建  碑  趣  旨
故大蔵事務官端山豊蔵氏、終戦後世態の劇変に伴う道徳の頽廃に因り税法違反日に多きを加えんとするに際し、神奈川県税務署間税課長としてこれら悪質反則者の摘発に日夜鞅掌しつつありたるが、偶然昭和22(1947)年6月23日第三国人酒類密造の報に接し、率先課人を統率してこれが取り締まりに当りたる処、不幸凶漢の不逞の報復に遭い、遂に前途有為の身を犠牲に供し、その職に殉ずるに至りたるは是に痛歎の極みにして遺族の哀情を察するとき、真に哀悼に堪えざるものあるも、君が烈々たる職責遂行の信念と事に当りての果敢なる行動とは全国6万人税務官吏の旗標として同僚を奮起せしむると共に、国民の正義感に訴え弛緩せる道義心を粛然たらしむるものあり。呱呱に玆に同僚有志にして君が殉職を卹む者相諮り資を捐て碑を建て君が名聲を永く後世に伝えんとするものなり。

昭和25(1950)年10月1日 東京国税局長 阪田泰二  誌

閣議決定「酒類密造摘発に関する態勢確定の件」 194774

略式閣議録(6)『昭和57総』開始コマ:0405、内閣、1947年7月4日(国立公文書館所蔵)

◆資料出所 2014年6月7日在日韓人資料館土曜セミナー第73回

「解放」直後における在日朝鮮人の濁酒闘争‐取締り決定過程を中心に‐李杏理氏提供資料より

川崎税務署管内第三国人(注;原文のまま)部落において大規模な酒類密造の摘発が行われたが、これに対し密造関係者らによる端山間税課長が暗殺されるとともに、神奈川県下税務官吏に対する加害企図、脅迫などが頻発し、ために税務官吏は安んじて執行することが困難となり、税務行政に著しい支障を来している。

殺人犯人の検挙、脅迫を受けている税務署、税務署員の警護等については、既に関係方面と緊要な連絡をとって努力中であるが、他面本件は単なる密造事件ではなく、悪質な経済違反者の部落的集団に係る事件であって、政府の経済緊急対策の成否にかかる重大問題であるから、今後とも関係方面協力一致し、確固たる態度を以てその処理に遺憾のないようにする必要がある。よって、左のとおり措置したい。

一 集団部落が、酒の密造のみならず闇取引の巣窟となっており、法律に基づく犯罪の検挙に対して逆襲に出るなど、社会秩序を乱しているので、綜合的にこれらの集団に対する対策を樹立し、歩々緩急の度を図りつつ秩序を恢復維持することとし、悪質者は本国に送還するなどの抜本的措置を講ずること。

二 今後この種の事件を処理するときは、単に酒税法違反として税務署中心の検挙とすることなく、食糧管理法その他の違反である点もとらえて、検察庁、警察、税務署が一体となってこれに当り、特に事件の前後を通じて警察の武装力による税務署などの警備、援護の十全を図ること。